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多満子の過去

主人公・富田多満子は、卓球クラブを運営する母親のもとでスパルタ教育を受け、”天才卓球少女”として育ってきた。

多満子は、中学生のとき母が他界したのをきっかけに卓球をやめた。自由で平凡な人生を手にした多満子は、青春を謳歌（おうか）した後、企業に就職して庶務の仕事をしていた。

あるとき、多満子の会社の卓球部にイケメン選手・江島晃彦がやってくる。多満子は江島との仲を深め、やがてふたりは付き合うことになった。「バラ色の人生が始まった」と喜ぶ多満子だったが、その幸せは長く続くものではなかった。

ほどなくして、江島は新入りの卓球選手として入社してきた小笠原愛莉と男女混合ミックスの大会に向けてペアを組むことになる。ここから江島と愛莉の関係性は親密なものになる。

ある日、多満子はサプライズの準備をして江島の帰宅を待っていた。しかし、江島を驚かせようとソファの陰から飛び出した多満子の目に映ったのは、愛莉に覆いかぶさる江島の姿だった。

江島に浮気されショックを受けた多満子は、会社をやめて地元に帰ることにする。

フラワー卓球クラブ　大会をめざす

実家に帰った多満子は、かつて母の経営していた「フラワー卓球クラブ」が活気をなくした様子を目にする。多満子の父は借金も抱えており、赤字経営が続く卓球クラブの閉鎖を考えていた。

偶然出くわした幼馴染の吉岡弥生（よしおかやよい）に地元へ帰ってきた経緯を話した多満子は、「フラワー卓球クラブでコーチをしないか」と提案される。

渋々ながらコーチを引き受けて卓球クラブを訪れた多満子を待っていたのは、不登校の高校生・佐々木優馬（ささきゆうま）と、プチトマト農家の夫婦・落合元信（おちあいもとのぶ）と美佳（みか）、そして建設現場で働く萩原久（はぎわらひさし）だった。

卓球を再開した多満子は、江島＆愛莉ペアが活躍を広げて注目を浴びていることを知り、闘争心に火がつく。そこで、ふたりを卓球で打ち負かすこととフラワー卓球クラブの再建をかねて、全日本卓球選手権大会にエントリーすることを決意する。

大会出場をめざすことになったフラワー卓球クラブのメンバーは、出場者が少なく勝てる可能性の高いミックス（男女混合ペア）を組むことにした。こうして、多満子＆萩原、弥生＆優馬、落合夫婦の3組のペアで練習に励む日々が始まった。

予選大会に挑んだフラワー卓球クラブ。しかし、実力不足であっけなく敗退、あげくの果てに多満子は足を負傷してしまう。クラブのメンバーたちはそれぞれの日常に戻るのだった。

リベンジに向けて

もとの生活に戻ったメンバーたちだったが、実はそれぞれに悩みを抱えていた。

弥生は、医者である夫を立てるために良き妻を演じることに窮屈さを感じていた。また、優馬は学校に登校拒否を続け、落合夫婦は農園の後継ぎがいないことに頭を悩ませているのだった。

萩原は元プロボクサーであったが、負傷して引退したこと、その後の仕事がうまくいかず酒に酔い、妻の相談に乗っていた上司を勘違いして殴ったこと、そしてそれが原因で妻と娘に見捨てられたことを多満子に打ち明けた。

一方、多満子は失恋の過去にケリをつけるため、萩原に連れられて江島たちに会いに行く。多満子の陰口を笑い話にしているところに遭遇し、逃げ出す多満子に代わって、萩原は「一生懸命生きてるヤツを馬鹿にするな」と言い放った。

多満子と萩原は、1年後の大会でリベンジすることを決意する。

多満子の足も治り、互いに「タマコ」「ハギ」と呼び合う仲になったふたりは、猛特訓を始める。

強力な相手たちと練習試合をして武者修行を重ねてくうちに、行きつけの中華料理店の張と楊が、中国ナショナルチームの強化選手候補になった経験の持ち主であることが明らかになる。

彼らのスパルタ特訓を受けたフラワー卓球クラブのメンバーたちはどんどん実力を上げていった。

大会欠場のピンチ

そんなある日、フラワー卓球クラブに萩原の妻と娘が訪ねてくる。一生懸命がんばっている彼のことを見直し、就職の話を持ってきたのだった。

しかし、多満子は面接日が大会当日と重なっていることを知ってしまう。

一方、多満子のもとに江島が訪ねてくる。スランプにより愛莉とのペアを解消した江島は、これまでのことを謝罪し、「多満子とペアを組みたい」と申し出てきた。

初めは断る多満子だったが、「萩原が仕事に就いて家族とやり直せるように、江島とよりを戻したい」と言ってペア解消を宣言した。

その結果、フラワー卓球クラブは大会不参加に決まった。

大会当日

迎えた大会当日。

ひとりどうしても諦めきれない優馬は会場へ向かった。優馬の思いに心を動かされた落合夫婦と弥生もまた、会場へと向かうのだった。

それぞれの思いを抱えてメンバーたちは試合に挑む。

一方、多満子はこれまでのことを思い出し涙しながらも、仕事で気を紛らわせようとしていた。そんな多満子のもとに現れたのは、面接に行ったはずの萩原だった。

将来を棒に振った萩原に対して怒る多満子の口を、萩原はキスでふさぐ。最高のパートナーであることを再認識し合ったふたりは、会場へと急ぐのであった。

抜群に息の合ったプレーで、多満子＆萩原ペアは決勝まで勝ち進んだ。迎えた決勝戦での最終対戦の相手は、スランプを脱しペアに戻った江島と愛莉だった。

両者譲らない試合の展開に、白熱する会場。

多満子は自分が卓球をする意味をよく理解し、最終ゲームまで粘りを見せたものの、多満子＆萩原ペアは勝利をつかむことはできずに終わった。

しかし、その健闘ぶりに観客らは拍手を贈り、多満子らも満足げな笑顔を浮かべるのだった。

大会を終えて

それからというものの、多満子＆萩原ペアは大会を見た人たちから大人気となり、ガラガラだった行きつけの中華料理店には多くの客が訪れるようになった。

また、弥生は夫に本来の自分を認めてもらい自分らしく振舞うようになり、落合夫婦は農園を広げる計画を立て始めた。

そして、多満子と萩原がコーチを務めるフラワー卓球クラブには、入会希望者が殺到し、連日大盛況を見せるほどの人気ぶりになった。

『ミックス。』の感想

この手のストーリーでは、てっきり試合に勝って終わるのかと思っていたので、いい意味で予想を裏切られました。最後、試合では江島たちに勝つことはできませんでしたが、多満子は勝利以上に大切なものを手に入れ、大きく前進することができたと思います。

初めは最悪のペアだったふたりが、互いに分かち合うようになり、相手を思いやりすぎて一時は解散しかけるところで、思わず「解散しないで」と言いたくなるもどかしさを感じました。

何に対しても、全力で打ち込めば、必ずそこから得られるものがあるのだと気づかされました。

「自分も何かひとつ頑張ってみようかな」という前向きな気持ちにさせてくれる作品でした。